<亀山早苗の不倫時評――『あなたには帰る家がある』の巻 vol.4>

 不倫相手にすがる、木村多江の鬼気迫る演技が話題のTBS金曜ドラマ『あなたには帰る家がある』(金曜、夜10時)。夫婦二組の不倫を描いた本作を、不倫事情を長年取材し著書多数のライター・亀山早苗さんが読み解きます。(以下、亀山さんの寄稿)

◆自分が拒まれない方法を熟知

 ドラマ『あなたには帰る家がある』で、薄幸の女王から魔性の女へとイメージを変えた木村多江。その演技は回が進むごとに唸るほど恐怖感が増しているが、彼女が演じる“綾子”は本当に「魔性の女」なのだろうか。

 どうやら人には言えない過去がありそうな綾子。夫への忍従から「不倫」を経て、相手の男・秀明(玉木宏)を一途に、そして過剰な愛情で搦め取ろうとしているのが見えたのが第7回と8回の放送だった。

 彼女の行動は非常に興味深い。ごく自然に、そしてしれっと男の目と気を惹く行動を粘り強く続けていくのだ。それだけを見ると、まるでストーカーのようなのだが、男の気性に見合った行動をとっているのは計算なのか天然なのか。秀明が、心根の優しい男だからこそ、綾子の行動は意味をもつ。「捨て犬を見捨てられない男」に、こういう女は入り込んでいくのだ。決して手厳しく拒絶されないことを知っているから。

 離婚してアパート住まいになった秀明の部屋へやってきた綾子。「これでやっと一緒にいられるね」と無邪気な笑顔を見せる。秀明が、オレたちは終わったはずだと言うと、「あんなことになったのは誰のせい?」「私の家族が壊れたのは誰のせい?」と畳みかける。元は自分が悪いと秀明が言おうとすると、彼女は両手で顔を覆うようにして笑い、「恋人同士のこういうケンカ、してみたかった」とつぶやく。

 まるで洗脳である。あなたと私はこうなる運命だったのよ、という言外の概念が男の頭に叩き込まれていくのが見えるようだ。そして彼女は、彼のすぐそばによって手を取り、

「私は秀明さんと生きます。そう決めたの。だから終わりを決めるのは秀明さんじゃない」

 と理屈にならない理屈を言う。過剰な愛は、常に支配を含んでいる。ただ、弱っている男に、その執念は伝わらない。

◆“魔性の女”はこうやって男性を洗脳

 さらに彼女は行動する。わざわざ雨の日に濡れ鼠になって秀明の部屋へやってくる。100円ショップで買ったものを収納に使っているのを見て、心の底から感心して、「すごーい。こんな使い方もあるのね」「すごーい」を連発。離婚して自信を失っている男を褒めまくるのは男の気を惹く基本的な手段その1、という感じ。

 彼がタオルを探している間に、引き出しをするすると開けて鍵を見つけて手に取る。そして彼がタオルを持って戻ってきたときには上着を脱ぎ、ノースリーブの腕も露わになっている。「濡れているから」という理由があるのだから、上着を脱いでも不思議はない。もし男がそこで抱きついてくればしめたもの、だろう。だが男は慌てふためきながら、自分のパーカーを貸す。

 その間に、彼女は「仕事を見つけたの」と自分の情報を小出しにする。食堂なのだが、「男の人にお酒を出したり」と意味ありげな伝え方。

「私も働いて秀明さんを支えたいの」

 潤んだ目でそう言われ、彼は「自分を必要としてくれるのは、この人だけではないだろうか」と一瞬、なびきそうにさえなる。過剰な愛に身を任せる心地よさもあるのではないかと思ってしまうのだ。

 そこまで過剰な愛情の大波を仕掛けておきながら、綾子はありがとう、と出されたパーカーを着ると、「帰るね」とあっさり出ていく。男が少し物足りなさを覚える加減を知っているのだ。

 外に出た綾子が、折りたたみ傘をバッグから出して開くのを男は知らない。

◆ときには愛する人のため、髪を振り乱し全力疾走

 綾子の愛情には客観性がなく、目的のためには手段を選ばない感がある。けれども、恋に埋没(まいぼつ)している心地よさは彼女自身にもあるのだ、おそらく。若いときに何もかも失ってもいいと思える恋をしたことがないのだろう。

 彼女の心は、たまたま現れた秀明という男にすがりつき、ここから救い出してほしいという渇望で充満しているのに、言動ではちらちらと支配感が見え隠れするのも興味深いところだ。

 第8回目の最後では、元妻の真弓(中谷美紀)が届け物を持って秀明のアパートを訪ねるところを、やはり秀明の元へ行こうとしている綾子が見てしまい、近道を走りまくって先に秀明の部屋に合い鍵で入り込む。このときの綾子は、髪を振り乱しスカートの裾をたくしあげて全力疾走をする。「魔性」というよりは、やはり目的のために手段を選ばない強欲な女に見える。もちろん、その裏には彼女の悲しい過去があるようだが……。

 たまたま帰ってきた秀明と真弓がアパート前で顔を合わせる。元妻に未練がある秀明が「来てくれたの」と嬉しそうな顔をしたとき、部屋の中からドアが開き、「お帰り」と落ち着いた表情の綾子が迎える。まるで毎日、そうしているかのように。その顔を真弓に見せつけるために、綾子は鬼の形相で全力疾走をしたのである。

 秀明を見つめる潤んだ目と、元妻の真弓を見据える目の表情ががらりと変わるのがわかって、綾子、おそるべしと痛感する。一般的に「魔性の女」というと、無意識のうちに男を振り回す魅惑的な女という意味合いで使われることが多い言葉だが、本来の意味は「悪魔の持っているような、人をたぶらかし迷わせる性質(広辞苑)」だから、そういう意味では、「魔性の女」という言い方も当てはまる。

 ただ、彼女の抱える大きなトラウマのようなものが全身からにじみ出ていることもあって、どこか憎みきれない女になっているところは木村多江の演技のたまものなのだろう。

<文/亀山早苗>

【亀山早苗】

フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数

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Source: Ameba News

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